そろそろ遊戯王のルール改訂について思うところを書いてみたいと思います。
始めに断っておきますが、あくまで個人の意見であって、全体の総意ではございません。

カードゲームというのは非常に複雑です。ここまで騒ぎになったのが、単純に「新しいルールが気に入らないから」と括るのは無理があります。そこで何が問題なのか、
1.スタン落ちのあるMTG
2.ルール改訂を行ったガンダムウォー
3.販促アニメ
の3つの視点から書いていきます。


1.スタン落ちのあるMTG
まず、スタン落ちという言葉の意味についてです。
正式名称は「スタンダード落ち」です。
最初のトレーディングカードゲームであるMTGでは、カードの使える範囲が決まっています。
大きく分けると、直近2年間に発売されたカードが使える「スタンダード」、2003年以降のカードが使える「モダン」、全てのカードが使えるが、禁止カードが多い「レガシー」、全てのカードが使えて、禁止も無い「ヴィンテージ」です。
この内、直近2年という制限が設けられているスタンダードでは、毎年使えなくなってしまうカードが出てきます。
この、カードが使えなくなる事を、「スタンダード落ち」と呼んでいます。
簡単に言うと、「発売された日から〇年後に使えなくなる」という事です。

これをする事で何が起こるかですが、カードパワーのインフレを止める事ができます。
カードゲームというのは、常に新しい要素を求められています。遊戯王は1998年発売なので、新しいカードセットを発売するに当たり、過去19年のカードを越える物を作らなければなりません。
当然です、「新しいパック発売!3年前より弱いけどみんな買ってね!」と言われて買う人なんて居ません、3年前のカードを使います。
そこで必要になってくるのがスタン落ちの概念です。
越えなければならないハードルは低くなりますし、全体のカードパワーが強くなりすぎても調整が利きます。また、「去年までは素早く殴るデッキが主流だったから、これからはじっくりコントロールするデッキを主流にする」など、環境に変化をつける事ができ、飽きにくくすることができます。

また、事前に使えなくなる事がわかっているので、プレイヤーもカードショップも事前にそれを見越して動く事ができます。
プレイヤーは、あと半年強いデッキが使いたかったら買いますし、それが嫌なら事前に売ることもできます。
ショップも事前の在庫の調整ができます。
今回の件で、遊戯王は在庫を抱えているといきなり暴落するリスクがある物となってしまいました。
店側も積極的に在庫を確保することができなくなり、それは間接的にゲームの人気を鈍らせます。
「昨日は1000円、今日は100円」と「半年前は1000円、今は100円」の差ですね。

しかし、スタン落ちには良い事だけではありません。2年間で価値の無くなる物にお金をかけるのは…という人が出てきます。
カードゲームを続けるのにはお金がかかります。誰だって頑張って集めた物の価値が無くなるのは嫌ですし、そんな事ではメーカーも売り上げに陰りが出てきます。
そこで、上記の通り古いカードを使える環境を整備する必要が出てきます。
カードゲームというのは紙とインクだけで価値が出てくるので、お金を刷っているようなものとよく言われます。
本来であれば、その収益を環境の整備だったり、大会の運営だったり、ルール整備だったりに回さなければならないのですが、コナミはその部分を怠ってきたように感じます。


2.ルール改訂を行ったガンダムウォー
さて、ここで少し昔話をしましょう。
昔、遊戯王とほぼ同じタイミングで始まったガンダムウォーというカードゲームがありました。
適切なバランスと、ガンダムというブランド力で、着々と競技人口を増やしていきました。
ところが、2006年が過ぎた頃からカードパワーのインフレが加速し始めます。
しかしバンダイはそれらを対策するどころか、更に強いカードで塗り替える事で販売数を確保して行きました。
その終着点にACEという種類のカードが誕生しました。
このACEというカード、ACEでしか対象に取れないという凶悪な効果を持ち、更に1箱(約5000円)に1枚という封入率も相まってそれはそれは高価なカードになりました。
また、入っているデッキと入っていないデッキで天と地ほどのパワー差が生まれました。
ガンダムウォー=資産ゲーという状態が確立され、新規参入の敷居は高くなり、見限って辞めてしまうプレイヤーも続出しました。
その後もインフレは止まらず、ゲーム性を維持できなくなったガンダムウォーは、2011年に大幅なルール改定を行います。
ルール改定とは言いつつも、実態は過去のカードを全てゴミにするようなものでした。
取り扱っているショップも、残っていたプレイヤーも切り捨てる、大きな痛みを伴う物でした。

では、ルール改訂を行った現在、ガンダムウォーはどうなったかというと…
先月、サービスを終了しました。
ルール改定前の「過去より強いカードを入れて新しいセットを売る」という負の遺産を改善する事無く走り続けたガンダムウォーは、大幅な、最早別のゲームといって良い程の改定を行ったにも関わらず、カードパワーのインフレを抑えきれず約18年の生涯に幕を閉じました。

何が言いたいのかと言うと、ここまで酷くは無いにしろ、遊戯王は来るところまで来てしまったという事です。
また、ルール改定によるインフレの抑止は、その後にメーカーの販売戦略の切り替えが無ければ意味を成しません。
遊戯王が同じ道を歩まない事を願います。
(私はACE登場前に辞めたので、それ以降は当事者ではありません。間違い等あるかと思いますがご了承ください。)


3.販促アニメ
コンテンツはどうやって人口を増やしていくのか。
いくら面白いゲームを作っても、そもそも遊んでくれる人が居なければ発展しません。
最近のソシャゲで良く見られるのは他の作品とのコラボですね。
コラボした作品が好きな人を取り入れやすく、手っ取り早く人口を増やす事ができます。
カードゲームでもヴァイスシュヴァルツとかリセとかがそんな感じですね。
しかし、それらはカードゲームでは珍しい事。
多くのカードゲームは販促アニメ、漫画で入り口を作っています。
遊戯王やデュエルマスターズとかですね。

そうやって始めた人達には、心のどこかに「あの主人公みたいなデッキを使いたい」という気持ちがあるのではないでしょうか。
私はシンクロで始め、エクシーズ入り口で辞めてしまいましたが、今でもデッキは持っています。
アニメもある程度見ていました。
戦いの中で成長していく遊星と仲間たち、最大の敵でありながら世界を守るために苦渋の決断で戦っていた未来組、彼らの戦いは今でも印象に残っています。
今回のルール改定は、そういった過去に築き上げたキャラクターや世界観を否定するものとなっています。
ふと、「あの時のアニメ面白かったな。時間もできたし久しぶりに遊んでみるか。」と思っても、ルールがそれを叶わぬ物にしてしまっているのです。
再放送を見ている子供に「ルールが変わったから、この主人公たちのようなデッキはもう作れないよ。」と言うのでしょうか。
それでは余に悲しすぎます。
今回のルール改定は、多くのカジュアル層の遊ぶ環境を奪い、辞める切欠になってしまうのではないでしょうか。


・最後に
今回のルール改定が及ぼす影響は、単純に今のカードの価値が下がるだけでは片付けられません。
大会などには出ずに、好きなデッキを友達と遊んでいるだけのカジュアル層にまで大きな影響が出ます。
実は大会に参加する人は極少数で、大多数はそうやって友達と遊んでいるカジュアル層です。
そうした人達がパックを買い、カードを買い、コンテンツを支えてくれているのです。
それを切り捨てるような今回のルール改定には私は否定的です。
遊戯王は続くでしょう。
この程度で廃れるようなコンテンツではありません。
しかし、多くの物を失う結果になってしまいました。
今後、コナミが気持ちを入れ替えて環境の整備、カードパワーの調整をしてくれる事を切に願います。

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